プロムの時期になると
化粧品売り場は忙しくなる。

大勢の高校生がメイクオーバーに来るからだ。

ちょっとのメイクで若い子たちはきれいになるので、
私たちにとっては、本来簡単な仕事のはずなのだが、
最近はソーシャルメディアのせいで
キム・カーダシアンみたいなメイクにしてだの、
有名なユーチューバー(名前なんて私が知る由も無い)みたいにしてだの、
注文が多い。

そうかと思えば、メイクなんて全然わからないからと
母親と一緒に来る子もいる。


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どこがどうとも言えんが、
お母さんがちょっと変わった人で、よく喋った。

その反対に娘さんはとても大人しく、
そして私の絵ではわからないと思うが、
スタイルも良く美人だった。


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私がNOと言った時、
周りの美容部員たちは、目を丸くしていたが
わからんもんはわからんのや。

「あんたの言うてることわからんので、
他の人に頼んでください」

私は親子をカウンターから追い出した。

そもそも、メイクは無料でやっているのだ。

メイクは無料でするが、お買い物してください、
ということだ。
メイクというスキルのある私たちだが、
売ってなんぼの仕事なのだ。

アイラインだけに一時間以上も費やしていられない。

そこまではっきりと
「娘のアイラインはこうあるべき」
と、わかっているのなら、
お母さん、あんたがやったらよろしい。

私は超能力者やないから、あんたのイメージを一寸の狂いもなく
わかるわけもない。

まさか、断られると思っていなかったのか
母親は慌てふためいていたが、
無理なもんは無理。

その場にいた、他の女子高生が私に教えてくれた。
「あのお母さん、ヘアサロンでも文句つけまくって、
何度もやり直しさせて、四時間も粘ってたのよ」

ひぃーーー

アイラインに一時間とか、あのお母さんには
屁でもなかったわけや。

おそろしい、おそろしい・・




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